奥歯を失ったあと、「このままでいいのか」「何を選べばいいのか」と迷うのは自然なことです。
このページでは、インプラント・ブリッジ・入れ歯(部分入れ歯)と、短縮歯列(SDA)という考え方を、できるだけ分かりやすく整理します。
京都の愛歯科医院では、患者さんの口の中の条件と生活の困りごと、そして優先順位に合わせて、無理のない“ちょうどいいゴール”を一緒に考えています。

悩み

まず最初にお伝えしたいこと

奥歯が抜けた(または抜歯になる)とき、治療の選択肢は大きく3つあります。
・インプラント
・ブリッジ
・入れ歯(部分入れ歯)

そして、状況によっては「短縮歯列(SDA)」という考え方をベースに、奥歯を“あえて作らずに”経過観察する選択も検討に入ります。短縮歯列(SDA)は、「前歯〜小臼歯で噛める状態を整えて、奥歯(大臼歯)の補いは必須としない」考え方です。*1 *4 *5

大事なのは、
・“作る/作らない”の二択で決めないこと
・今の口の機能(噛みやすさ、痛み、見た目、清掃性など)と、将来のリスクをセットで考えること
です。*4 *5

「短縮歯列(SDA)」って何?

短縮歯列(SDA)は、奥歯の本数が減っていても、噛み合わせのユニット(噛める場所)が一定数あり、左右のバランスが取れていれば、口の機能を保てる場合がある、という考え方です。1 一方で、すべての方に当てはまるわけではありません。噛む力、残っている歯の状態、歯周病やむし歯のリスク、食事の困りごと、見た目の希望などで、最適解は変わります。5 *6

何もしない(短縮歯列(SDA)で経過観察)場合に、外せない注意点

短縮歯列(SDA)で経過観察する場合でも、放置ではありません。次のリスクは必ず説明したうえで、対策(チェックと調整)をセットにします。

1) 噛み合う相手の歯が伸びてくる(挺出する)リスク

奥歯が抜けて“噛み合う相手”がいなくなると、その歯が伸びてきて噛み合わせが乱れることがあります。*13 *16 *17

これが進むと、将来インプラントやブリッジ等で治すときに、スペースが足りず治療が難しくなることがあります。*17

2) 抜けたところの「隣の歯」が倒れてくる(傾斜する)リスク

抜けた歯の隣の歯が倒れてきたり、歯の間に物が詰まりやすくなったり、清掃が難しくなることがあります。*14
この変化も、将来の治療設計に影響します。

3) だからこそ「定期チェック」が前提

短縮歯列(SDA)で経過観察を選ぶ場合は、
・噛み合わせのチェック
・歯の動き(挺出/傾斜)のチェック
・むし歯/歯周病リスクの管理
を前提にします。*5 *6

失った歯を「補う」3つの方法

まずは3つの方法を、メリットと注意点で見比べてみましょう。

インプラント

インプラント

周りの歯を削らずに補いやすい方法です。
外科処置と、清掃・定期管理が前提です。

ブリッジ

ブリッジ

固定式で、違和感が少ないと感じる方もいます。
両隣の歯を削る必要があり、支えの歯に負担がかかります。

入れ歯

入れ歯

外科処置なしで、噛む場所を補える方法です。
支えの歯に負担がかかりやすく、プラークがたまりやすい部位ができます。

インプラント

・周りの歯を基本的に削らずに、噛む場所を作れる方法です
・近年の医療の発展に伴い、状況が合えば選びやすい治療になってきたと思われます
・一方で、外科処置が必要で、全身状態や骨の条件、清掃・メンテナンスの継続が重要です

インプラント治療については、こちらのページでより詳しく解説しています。

インプラント治療

四条烏丸の愛歯科医院では、インプラント治療で自然な見た目と噛む力を回復し、快適な暮らしをサポートします。治療の流れや注意点も詳しく解説。

ブリッジ

・抜けた歯の両隣の歯を削ってつなぎ、噛む場所を作る方法です
・固定式で違和感が少ないことがあります
・ただし、両隣の歯を削る必要があり、支えになる歯に負担がかかります(これはデメリットとして言い切れます)

入れ歯(部分入れ歯)

・取り外し式で、比較的広い欠損にも対応しやすい方法です
・一方で、支えになる歯に負担が集中しやすいことがあります(特に金具などで支えるタイプでは注意が必要です)
・また、歯と入れ歯が触れる部分は歯垢(プラーク)がたまりやすく、むし歯や歯周病のリスク管理が重要になります *18
・奥歯の先に支えがない形の部分入れ歯では、「入れたのに口の機能がはっきり良くなったとは言えない」ケースがある、という報告もあります *2

当院の考え方:結論を急がず、「患者さんの優先順位」で決める

1) いま困っていることの確認

・硬い物が噛めない、食事がつらい
・噛むと痛い/疲れる
・見た目が気になる(口元・ほほの張りなど)
・食片が詰まる
・すでに反対側も噛みにくい

2) 口の中の条件確認(将来のリスクも含めて)

・残っている歯のむし歯/歯周病リスク
・噛み合わせの安定(左右バランス)
・挺出(伸び)や傾斜(倒れ)の兆候 *13 *14
・清掃のしやすさ(続けられるか)

3) 選択肢を「組み合わせ」も含めて提示

たとえば、
・まずは短縮歯列(SDA)で経過観察し、必要になったら補う *4 *5
・奥歯を全部作るのではなく、必要なところだけ作って口の機能を回復する(=短縮歯列(SDA)に近い仕上げ)
・まずは入れ歯で試し、合わなければ別の方法へ
など、一本道にせず整理します。

最後に:一緒に「ちょうどいいゴール」を決めましょう

奥歯を失ったときの選択は、「正解が1つ」ではありません。
大切なのは、患者さんの口の中の条件と、生活の中の困りごと、そして優先順位(できるだけ削りたくない/外科は避けたい/しっかり噛みたい/手入れをシンプルにしたい等)を整理して、「今の自分にちょうどいいゴール」を決めることです。

短縮歯列(SDA)で経過観察を選ぶ場合でも、補う治療を選ぶ場合でも、共通して大切なのは「残っている歯を守る」ことです。
そのために、噛み合わせの変化(対合歯の挺出、隣接歯の傾斜など)や、清掃のしやすさを定期的にチェックしながら進めます。

このあとに載せるFAQは、患者さんからよくいただく疑問をまとめたものです。
また、参考文献(論文一覧)は、短縮歯列(SDA)や欠損後の変化について、研究としてどこまで分かっているかを示すために掲載しています(難しい部分は、読まなくても大丈夫です)。

「自分の場合はどれが合うのか」を一緒に整理したい方は、まずは相談にお越しください。
※恐れ入りますが、メールでの個別の治療相談(診断・治療計画の作成)は承っておりません。
実際の状態を確認したうえで、来院時に丁寧にご説明します。

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よくある質問(FAQ)

奥歯が1〜2本なくても、噛めるならそのままでも大丈夫ですか?

条件によっては短縮歯列(SDA)として経過観察が可能な場合があります。*1 *4 5 ただし「挺出(伸び)」「傾斜(倒れ)」などのリスクは外せないため、定期チェックが前提です。13 *14

「短縮歯列(SDA)」は“治療しない”という意味ですか?

いいえ。短縮歯列(SDA)は放置ではなく、口の機能を保ち、リスクを管理しながら経過をみる考え方です。*4 *5

抜けたところの反対側の歯が伸びてくるって本当ですか?

伸びてくる(挺出する)ことがあります。*13 *16 将来の治療が難しくなる場合もあるため、早めに現状評価をおすすめします。*17

抜けたところの隣の歯が倒れることはありますか?

起こり得ます。*14 物が詰まりやすくなったり、清掃しにくくなったりします。

入れ歯(部分入れ歯)のデメリットは何ですか?

支えになる歯に負担が集中しやすいこと、歯垢(プラーク)がたまりやすい部位ができることが代表的です。*18 入れ歯の設計と清掃・メンテナンスが重要です。

入れ歯(部分入れ歯)を入れれば噛めるようになりますか?

多くの方で役に立ちますが、奥歯の先に支えがない形の部分入れ歯では、口の機能が「明確には改善しない」ケースがあるという報告もあります。*2

ブリッジはなぜ「両隣の歯を削る」のですか?

抜けた歯の部分を支えるために、両隣の歯を土台としてつなぐ必要があるからです。その結果、両隣の歯に負担がかかります(デメリットです)。

インプラントは誰でもできますか?

条件によります。全身状態、骨の状態、清掃・メンテナンスの継続などを確認し、適応を判断します。

「奥歯は全部作った方がいい」と聞きました。そうしないと危ないですか?

そう言い切れないのが現実です。短縮歯列(SDA)を含め、複数の考え方・研究があり、治療の影響を過大評価しないよう注意が必要だ、という見方もあります。*12

短縮歯列(SDA)で経過観察すると、残りの歯が早くダメになりますか?

条件によります。研究では、短縮歯列(SDA)と、部分入れ歯で奥歯を補った場合で、歯の喪失に大きな差が出ないケースも報告されています。*11 *12 ただし個人差が大きいので、口の中のリスク評価が重要です。

どの治療が自分に向くか、どうやって決めればいいですか?

「いま困っていること(痛み/噛みにくさ/見た目)」と「将来のリスク(挺出・傾斜・清掃性など)」を整理し、選択肢を並べて比較するのが一番確実です。*13 *14

相談したいのですが、まず何を準備すればいいですか?

「いつから」「どこが」「何が困るか(噛む/痛い/詰まる/見た目)」が分かるメモがあるとスムーズです。レントゲンや口の中を確認し、治療の選択肢を一緒に整理します。

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京都市中京区 四条烏丸 愛歯科医院 院長 金明善

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参考文献

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[*2] Witter DJ, van Elteren P, Käyser AF, van Rossum MJ. The effect of removable partial dentures on the oral function in shortened dental arches. J Oral Rehabil. 1989 Jan;16(1):27-33. doi: 10.1111/j.1365-2842.1989.tb01314.x. PMID: 2746404.
[*3] Käyser AF, Witter DJ, Spanauf AJ. Overtreatment with removable partial dentures in shortened dental arches. Aust Dent J. 1987 Jun;32(3):178-82. doi: 10.1111/j.1834-7819.1987.tb03019.x. PMID: 3479105.
[*4] Witter DJ, van Palenstein Helderman WH, Creugers NHJ, Käyser AF. The shortened dental arch concept and its implications for oral health care. Community Dent Oral Epidemiol. 1999 Aug;27(4):249-58. doi: 10.1111/j.1600-0528.1998.tb02018.x. PMID: 10403084.
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[*6] Armellini D, von Fraunhofer JA. The shortened dental arch: a review of the literature. J Prosthet Dent. 2004 Dec;92(6):531-5. doi: 10.1016/j.prosdent.2004.08.013. PMID: 15583557.
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[*15] Craddock HL, Youngson CC, Manogue M. Occlusal changes following posterior tooth loss in adults. Part 3: occlusal interferences. J Prosthodont. 2007;16:. doi: 10.1111/j.1532-849X.2007.00234.x. PMID: 17927736.
[*16] Compagnon D, Woda A. Supraeruption of the unopposed maxillary first molar. J Prosthet Dent. 1991 Nov;66(5):696-700. doi: 10.1016/0022-3913(91)90410-E. PMID: 1941670.
[*17] Lee BA, Kim B, Kim YT. Supraeruption as a consideration for implant restoration. J Periodontal Implant Sci. 2020 Aug;50(4):260-267. doi: 10.5051/jpis.2000140007. PMID: 32643329.
[*18] MacEntee MI. The harmful effects of the removable partial denture: a case for caution. J Prosthet Dent. 1993;. PMID: 8371175.