根管治療でマイクロスコープを使うと何が違う?成功率と精密治療のメリット

はじめに
歯の内部には「根管」と呼ばれる細い管があり、そこには歯髄(いわゆる歯の神経)が通っています。むし歯が深くなって歯髄が感染したり、過去の根管治療がうまくいかなかった場合に、根管治療(根の治療)が必要になります。
しかし根管治療は、歯科治療の中でも特に難しい治療の一つです。なぜなら、治療の対象となる根管は非常に細く、複雑で、肉眼では十分に見えないからです。
近年、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いた精密根管治療が注目されています。このコラムでは、マイクロスコープを使うことで根管治療がどのように変わるのか、成功率や予後にどう影響するのかについて解説します。
根管治療はなぜ難しいのか
根管治療の難しさは、次のような理由からきています。
根管は非常に細い
根管の太さは、平均で0.3〜0.5ミリ程度です。前歯の根管は比較的太いですが、奥歯になると0.1ミリ以下という非常に細い根管も珍しくありません。髪の毛の太さが約0.1ミリですから、それと同じかそれより細い管の中を治療することになります。
根管は曲がっている、分岐している

根管はまっすぐではなく、多くの場合曲がっています。また、一つの根に複数の根管がある(分岐している)ことも多く、その形態は非常に複雑です。特に第二根管(MB2)と呼ばれる見落とされやすい根管が存在することもあります。
歯の内部は暗く、見えにくい
根管は歯の内部にあるため、口の中でも特に暗い場所です。肉眼では、どうしても「見えない部分」が残ってしまいます。見えなければ、感染源を完全に取り除くことは困難です。
マイクロスコープで何が見えるようになるか
マイクロスコープを使うことで、肉眼では捉えきれなかった根管の微細な構造を確認できるようになります。
細い根管の発見
肉眼では見落とされがちな細い根管や、分岐した根管を発見できます。治療すべき根管を見落としてしまうと、そこに感染源が残り、治療後も症状が続くことがあります。マイクロスコープを使えば、こうした見落としを大幅に減らすことができます。
根管内の詳細な観察
マイクロスコープの拡大倍率は、通常5倍から20倍程度です。愛歯科医院では、5倍や8倍の倍率で根管治療を行うことが多いです。この拡大視野によって、根管の入口の形状、内部の湾曲の程度、感染の範囲などを正確に把握できます。
感染源の確実な除去
根管内に残った感染組織や、古い充填材料の取り残しを確認しながら除去できます。「見えない部分を手探りで治療する」のではなく、「見ながら確実に処置する」ことが可能になります。

破折や穿孔の早期発見
歯根の破折(ヒビや割れ)や、治療中の穿孔(根管に穴が開いてしまうこと)を早期に発見できます。これらが見つかった場合、対処方法を考える、あるいは「残せない」という診断をより確実に下すことができます。
成功率・予後への影響
マイクロスコープを使った根管治療は、肉眼での治療と比べて、より高い成功率が期待できるとされています。
取り残しの減少
細い根管や分岐した根管を見落とさず、感染源を確実に取り除けるため、治療後の再発リスクを減らすことができます。
再治療リスクの低減
一度根管治療を行った歯が再び問題を起こす(再治療が必要になる)リスクは、マイクロスコープを使うことで低減すると考えられています。海外の研究では、マイクロスコープを使用した根管治療の成功率は90%前後という報告もあります(2)。
特に外科的根管治療(歯根端切除術)においては、マイクロスコープの効果が明確に示されています。2010年に発表されたSetzerらのメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)によれば、従来法(拡大なし)での成功率は59%であったのに対し、マイクロスコープを使用した場合は94%という高い成功率が報告されています(1)。
ただし、マイクロスコープは万能ではありません。歯の状態によっては、どれだけ精密に治療しても予後が良くないケースもあります。

どんなケースで特に有効か
マイクロスコープは、特に次のようなケースで威力を発揮します。
再根管治療(過去の治療がうまくいかなかった場合)
「以前、根の治療をしたのに痛みや腫れが治まらない」「レントゲンで根の先に影が残っている」といった場合、再根管治療が必要になることがあります。再治療では、過去の充填材料を除去し、見落とされていた根管を探す必要があるため、マイクロスコープが特に有効です。
複雑な根管形態
奥歯の根管は形態が複雑で、肉眼では治療が困難なことがあります。特に上顎大臼歯には「MB2」と呼ばれる見落とされやすい根管があります。この根管を見落としたまま治療を終えると、そこに感染源が残り、治療後も症状が続くことがあります。マイクロスコープを使用することで、こうした見落としを大幅に減らすことができます。
マイクロスコープを使えば、湾曲した根管や、分岐の多い根管にも対応しやすくなります。
症状が改善しない場合
「痛みが続く」「噛むと違和感がある」など、原因がはっきりしない場合、マイクロスコープで詳細に観察することで、破折や穿孔、見落とされていた根管などが見つかることがあります。
まとめ
根管治療は「見えない部分」との戦いです。マイクロスコープを使うことで、肉眼では捉えきれなかった歯の内部の状態を可視化し、より精密で確実な治療が可能になります。
愛歯科医院では、2013年からマイクロスコープを導入し、日本顕微鏡歯科学会の認定医として、根管治療をはじめとする様々な治療にマイクロスコープを活用しています。
→ マイクロスコープを使った精密根管治療について詳しくはこちら
根管治療でお悩みの方、過去の治療がうまくいかなかった方は、ぜひ一度ご相談ください。
京都市中京区 四条烏丸 愛歯科医院 院長 金明善
参考文献
(1) Setzer FC, Shah SB, Kohli MR, Karabucak B, Kim S. Outcome of endodontic surgery: A meta-analysis of the literature - Part 1: Comparison of traditional root-end surgery and endodontic microsurgery. J Endod. 2010;36(11):1757-65.
(2) Khalighinejad N, Aminoshariae A, Kulild JC, Williams KA, Wang J, Mickel A. The Effect of the Dental Operating Microscope on the Outcome of Nonsurgical Root Canal Treatment: A Retrospective Case-control Study. J Endod. 2017;43(5):728-32.

