口腔ケアは呼吸器感染症の予防に役立つ?
先日のコラム「正しい歯磨きのタイミングとは? 〜いつ磨くのがベスト?〜」の続編となります。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など、私たちの健康を脅かす呼吸器感染症。
実はこれらの感染症対策として、「歯磨きなどの口腔ケア」が重要だと考えられています。
「なぜ口のケアがインフルエンザや新型コロナ予防に役立つのか?」
本記事では、口腔内環境とウイルス感染症の関係を分かりやすく解説し、根拠や参考研究についても触れながら、具体的なケア方法のポイントをお伝えします。
なぜ口腔ケアが大切なの? 〜細菌とウイルスの関係〜
口の中には常に多種多様な細菌や微生物が存在しています。寝ている間など、唾液の分泌が減っている状態が続くと、細菌が増えやすくなるため、口腔内の衛生状態が悪化することがあります。
このとき、もしウイルスが体内に侵入しようとした場合、粘膜が炎症を起こしているとウイルスが定着・増殖しやすくなる可能性があると考えられています。
つまり、口の中を清潔に保つことは、呼吸器系の粘膜を健康な状態に近づけ、感染リスクを下げる一助となるのです。
どんな研究結果があるの? 〜歯周病とCOVID-19重症化リスク〜
2021年に医学誌「Journal of Clinical Periodontology」に掲載された研究(※1)では、歯周病の患者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかると重症化しやすいという傾向が報告されました。
これは歯周病などで歯ぐきや口腔内に慢性的な炎症があると、全身の免疫バランスが崩れやすくなり、ウイルス感染が悪化しやすい可能性が考えられます。
まだ大規模な研究が必要な段階ではありますが、「口腔ケアを怠らないことで、呼吸器感染症の重症化リスクを下げる効果が期待できるのではないか」と専門家たちも注目しています。
インフルエンザや肺炎との関連 〜介護施設の研究例〜
介護施設に入所している高齢者を対象に行われた複数の研究では、専門家による口腔ケア(歯磨きや舌苔〈ぜったい〉の除去、入れ歯の清掃など)を徹底したグループと、そうでないグループを比べたときに、肺炎や呼吸器感染症の発症率が下がったとの報告があります(※2)。
これは高齢者に限ったデータではありますが、口腔内の清潔度を保つことで、気道や肺への細菌・ウイルスの侵入や増殖を防ぐ効果があると考えられます。
具体的にどうすればいい? 〜口腔ケアのポイント〜
1. 朝起きたらすぐ歯を磨く
寝ている間は唾液が少なくなり、口の中で細菌が増えている可能性が高いです。起床直後の歯磨きは、これらの細菌をすばやく除去し、一日のスタートを口内を清潔な状態で迎えるためにも効果的です。
2. 就寝前のブラッシングを念入りに
唾液による自浄作用が一番弱まるのは就寝中です。寝る前にしっかり歯垢(プラーク)を取り除いておくと、むし歯や歯周病予防に加えて呼吸器感染症リスクも下げることが期待できます。
3. 舌のケアは?
唾液がじゅうぶんに出ていて、ふだん舌がよく動いていればいわゆる「舌磨き」の必要はないと私は考えています。
要介護度が高く、自分で口のケアがじゅうぶんにできないような方は、舌苔もたまりやすいので、舌のケアも行った方がいいでしょう。
4. うがいや水分補給で口の渇きを防ぐ
口が渇くと細菌やウイルスが繁殖しやすくなります。適度な水分補給やうがいを習慣にすると、口腔内を清潔に保ちやすくなります。
口腔ケアだけで十分? 他の対策も組み合わせよう
もちろん、口腔ケアだけでインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などを完全に防げるわけではありません。
感染予防にはワクチン接種や手洗い・マスクの徹底、3密(密閉・密集・密接)の回避、適度な運動と十分な睡眠・栄養バランスなど、複数の対策を組み合わせることが基本です。
そのうえで、歯磨きフロスなどの口腔ケアも加えることで、ウィルスが口から体内に侵入するリスクをさらに下げられると考えられます。
まとめ 〜日常に取り入れることが大切〜
口腔ケアは、インフルエンザや新型コロナなどのウイルス感染症をはじめ、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症全般のリスクを下げる可能性があります。
特に、歯周病や口腔内の炎症を放置していると、感染症にかかったときの重症化リスクが高まるとの指摘もあります。
毎日の歯磨き、定期的な歯科検診、必要に応じた専門家による口腔ケアの指導などを習慣づけ、体の入り口ともいえる「口」の健康を守りましょう。
「いつブラッシングするのがいいか分からない」「寝る前につい歯磨きを忘れてしまう」などのお悩みがあれば、ぜひ当院へご相談ください。一人ひとりの生活スタイルに合ったケア方法をアドバイスいたします。
京都市中京区 四条烏丸 愛歯科医院 金明善
参考文献・情報源
(※1)Marouf, N., et al. (2021). Association between periodontitis and severity of COVID-19 infection: A case-control study. Journal of Clinical Periodontology, 48(4), 483–491.
(※2)Yoneyama, T. et al. (2002). Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. Journal of the American Geriatrics Society, 50(3), 430-433.
・日本歯科医師会:公式サイト
・厚生労働省:新型コロナウイルス関連情報